dokusyomemoのブログ(読書感想)

ぼちぼち読んだ本の感想を書いていきます。

霊柩車の誕生 井上章一

本書は日本葬送史について、葬送儀礼の変化に焦点を当てながら、霊柩車の出現までを詳述した書である。

一章では宮型霊柩車に焦点があてられる。その意匠は「大衆がつくりだしたキッチュ」であるとし、それがそのデザインに対するエリートと大衆の評価のずれを生んだ、と指摘する。ほかにも、その成立過程や地理的分布、その原型としての「輿」などが叙述される。

2章では明治時代の葬送が叙述される。葬列がしだいに奢侈の傾向を呈しはじめる様子や、葬列の人足が大名行列の労働者から転職したものがおおい、と資料を引き、葬列は「見ることができる大名行列」という側面があったのではないかと指摘する。

3章では大正時代における葬列の変化が描かれる。「葬列廃止の新傾向」や「夜間の密葬」がおき、葬儀が簡略化する方向に進みだした、とする。そしてその原因を「人間以外の交通機関」の増加ともう一つ、世俗的な虚栄心により葬送儀礼が肥大化し、その結果として聖性が弱体化したことに求める。
そして、「現代要求」すなわち「迅速経済」という要望により、霊柩自動車が出現したという。

文庫版増補の5章では、宮型霊柩車の減少が描かれる。「都市そのものの祭り」としての葬列の記憶を、装飾として車体に刻み込んだ宮型霊柩車の消滅と、それにともない増加する「意匠的にもととのった葬祭場や火葬場」が描かれる。