dokusyomemoのブログ(読書感想)

ぼちぼち読んだ本の感想を書いていきます。

世界神話学入門

世界神話学とは、神話の世界的な広がり、類似についての学問。

マイケル・ヴィツェル教授は、世界の神話は大まかに、古層であるゴンドワナ型神話と、新層であるローラシア型神話の二つに分類できる、という仮説をたてた。さらに、この神話モチーフの伝播・広がりは、人類進化、移動と「大局的に一致する」と主張している。

ゴンドワナ神話は「アフリカで誕生した現生人類のホモ・サピエンスが持っていた神話群で、初期の移動、すなわち「出アフリカ」によって南インドそしてオーストラリアへと渡った集団が保持する古層の神話群」であり、

ローラシア型神話は「すでに地球上の大部分の地域にホモ・サピエンスが移住した後に西アジアの文明圏を中核として生み出された」神話群だという。

 

ゴンドワナ型神話の特徴は一つ一つの話が独立し、創造神話に関心が薄い点にあり、

ローラシア型神話はストーリーラインが確立している点、世界の創造、場合によっては破滅が描かれる点に特徴がある。

このように二つの神話群の差異を画定したうえで、著者は日本神話はその両者の混交であると考えている。(大局的に見れば…ローラシア型神話群に属している…ただし…列島にはゴンドワナ型神話の痕跡も存在する。(18p))

 

1、2章では前提論点が解説される。人類の出アフリカからの移動ルートや、ホモ・サピエンスにおける認知能力の広がりなどである。

3章ではゴンドワナ型神話が多数例示される。本書にもあるようになかなか一般化できるようなものではないけれど、4章で例示されるローラシア型神話群と比較すれば、確かに一定の特徴は見えてくる。

しかし、比較という点が問題になる。たしかに、両者の違いを理解するには、まずローラシア型神話をイメージし、そこから控除するような形でゴンドワナ型神話をイメージしたほうがわかりやすい。実際、我々が慣れ親しんだ「物語」は、ローラシア型神話に属するものが多い。そして、ゴンドワナ型神話の例示を読んでいても、その内包がいまいちつかみづらい、と考えてしまう。ローラシア型神話の意義は以下のようにつかみやすい。

「一つ一つが独立峰的なゴンドワナ型神話とは異なり、ローラシア型神話の最大の特徴はさまざまな神話モチーフに物語としての連続性がみられる点である」p138)

この点、著者は、ゴンドワナ型神話の意義を、次のように説明している。

ローラシア型神話は紙がいかに世界と人間を想像したのか、いかに人間はその生存息を拡大したのか、また人間の間にいかにして不平等が生まれていったのかを語る神話である。一方、ゴンドワナ型神話は、そもそも人間と、動植物や自然現象を区別しない時代、人間もその一員として神羅万象や動物、木々や花々とともにささやきあっていた時代の神話である。言い換えればそれは文字が要らなかった時代の神話ともいえる。少々勇み足をして言えば、それは、自民族中心主義や征服者の思想には決して導かれることのない神話、すなわち現代の世界に最も必要とされている思考方式とは言えないだろうか」p266

「動植物や自然界に関する彼らの思想をほんとうに真正面から受け止め、信じられる人はまだまだ多くはないだろう」p269

5,6章では日本神話が分析され、特に6章では、日本神話にゴンドワナ型神話を読みだそうとしているように思える。文字伝承以前の葬送儀礼などの痕跡から、太古の信仰を考察する、というのは興味深いと思った。